2025.09.09
離職率が1/4に。エンジニアに「報われる努力」をさせる仕組みづくりとは

「SPORTS LIFE HACK COMPANY」というビジョンを掲げ、「スポーツの力を使って、産業の成長を促進し、社会をアップデートするプラットフォーム」になるという経営方針に基づき、複数事業を展開する株式会社アーシャルデザイン。その事業ポートフォリオのなかで「Tech & Boost(テックアンドブースト)」事業は、スポーツ人材にプログラミング教育を施することで、「人間力」と「ITスキル」を兼ね備えたエンジニアによる、高い遂行力を発揮するプロジェクト支援を実現。近年急成長を遂げています。
同社では「SkillDB」を導入することで、エンジニアの育成体制の構築や、社員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。今回のインタビューでは、同グループにて「SkillDB」の導入を進めるお二人に、その背景と導入のプロセスについて伺いました。
SportsForce事業部
取締役
松岡 飛鳥
SportsForce事業部
営業部長
水越 涼太
組織の急拡大にともない退職者が急増
あらためてスキルの可視化に取り組む背景ついて教えてください
松岡さん(以下、敬称略):アーシャルデザインの「Tech & Boost(テックアンドブースト)」事業は、2021年の事業開始直後から、垂直的に事業成長し、売上ベースで倍々で成長。組織としても、年間50名規模で急成長してきました。ところが、雲行きが怪しくなってきたのが、2024年ごろのタイミングで、組織体制としても100名を超えたあたりからでした。
それまでは、役員も社員もお互いに顔なじみで、互いの関係性についても強固だったものが、急にお互いの顔が見えなくなり「あなたは誰?」という社員が増えてきたのです。役員と社員の関係や、マネージャーとメンバーなど、社員同士の関係性についても希薄化してしまい、その結果、50名弱の退職者が発生してしまいました。とくに入社して3年目以降の中間層から上の退職者が多く発生してしまい、事業としても組織としても大打撃でした。

SportsForce事業部 取締役 松岡 飛鳥さん
そこで、まずは何が起こっているのか「正面から向き合わなければならない」と真摯に社員の声を聴くことにしました。そこで見えてきたのは、2つの問題です。ひとつ目は「給与制度」についてです。
「給与制度」については、アーシャルデザインがスポーツを軸にした複数事業を経営しているという特徴もあり、「Tech & Boost(テックアンドブースト)」事業に限らず、すべての事業が、ひとつの評価システムで評価されていました。一方で、世の中的には、いわゆる「高還元」なSES事業者も増えるてくるなかで、外部のプレイヤーと比較すると、どうしても給与水準として、見劣りしてしまうことがありました。ここについては、事業開始当初から懸念はしていたのですが、なかなか手を打つことができず、問題が健在化したタイミングで、事業部独自の評価システムを導入することで解消していきました。
ふたつ目は、「キャリアの不透明性」です。評価制度が登る山だとするならば、キャリアとは、山の登り方です。しかしながら、「どのように山を登っていけばよいのか」という方針を提示できていなかったため、「自分は成長していけるのだろうか」「自分は適切に評価されているのだろうか」という不安や疑問が募ってしまったことが、退職の原因でした。
そこで、色々とキャリアについても社内で検討・議論した結果、最終的には「還元率」に帰着しました。より多く稼げるエンジニアになれば、評価もあがるし、給与もあげることができる。そのようなキャリア設計が重要だと考えるようになりました。では「より多く稼げる」とはなにか。私たちは2つの要素が重要だと考えました。ひとつが人間力。そして、ふたつ目がITスキルです。
「人間力」については、これまで重要視はしながらも、社内で共通認識をもつための言語化や、仕組みを提供できていませんでした。そこで、内閣府が発表している「人間力戦略研究会報告書」にある「人間力」の定義をベースとして、アーシャルデザインとして求める人間力を定義し、普段のコミュニケーションや1on1でも引用することで、共通言語化していきました。
ただ、問題は「ITスキル」でした。アーシャルデザインの経営陣が、もともと技術的なバックグラウンドをもっていなかったので、正直「なにからしていいのかわからない」状況でした。
社内でスキル定義を試みるも挫折
そのようななか、どのような取り組みをしたのでしょうか
松岡:まずは、社内の現状について把握しようと、Excelで数百の技術を洗い出して、それぞれの社員が、どれくらいのレベルで、なにができるのかを、定量的に把握しようとしました。
ただ、それを社内で共有しようと有識者を集めて、意見を出し合う場を設けたのですが「ここのスキル定義は間違っている」「これだけではスキルを適切に評価できない」「スキルの抽象度が高すぎる」と議論が紛糾し、収集がつかなくなってしまい、リリースそのものを諦めました。それで正直、心が折れました。
そんななか投資家の方に紹介いただいたのが「SkillDB」でした。正直、そのような状況だったので「なんて巡り合わせだ!」と運命に感謝しました。
経営陣と営業、エンジニアそれぞれの責任者が協力
どのように導入は進めていったのでしょうか
松岡:まず導入のプロジェクトメンバーについては、私と営業側のトップである水越と、エンジニアのマネージャーとの3名で進めることにしました。
水越さん(以下、敬称略):導入プロジェクトについては、営業的な視点と、エンジニア的な視点、両者が協力することで、よいものがつくれたと感じています。たとえば、営業的な視点では「こういった要素があった方が、提案の場面でお客様にアピールできるので、盛り込みたい」ですとか、エンジニア的な視点としては「Salesforceのスキルの粒度は、もっと細かく分けるべき。育成の観点では、前提となるデータベースのスキルも盛り込むべき」というような具合です。構築内容のテーマによっては、社内の専門家にも入ってもらいました。
構築については、以前はゼロから自分たちでつくっていたのですが、テックピット側でテンプレートを用意してくれたので、それを社内でレビューし、最低限の修正で構築することができました。構築にあたって、他社での構築事例や、運用事例なども伺うことができたので、安心してプロジェクトを進めることができましたし、なによりも無事にリリースできたことにホッとしました。

SportsForce事業部 営業部長 水越 涼太さん
スキルの共通言語が生まれたことで離職率が1/4に
導入の成果について教えてください
松岡:これまで「ITスキル」に対して共通化されたものがなかったところから、「共通の物差しが手に入った」というのが一番の成果です。いままでは「スキルアップしよう」といっても、そもそも「誰が、何ができるのか」がわからなかったですし、そのため「なにを目指せばよいのか」も、具体的に示すことができませんでした。
いまでは、スキルが可視化されたことで、具体的なキャリア開発の支援ができるようになりましたし、社内のスキルについても互いに共有できるようになりました。例えば、「AWSを新しい案件で使うけど、社内の誰に聞いたらいいのか、わからない」という状況から、「AWSならxxさんが詳しい」と社内でお互いのスキルを認識できるようになりました。
結果として、離職率も一桁になり、30%から1桁まで離職率も下がりました。

ダッシュボード機能のイメージ
評価や給与に繋がる「報われる努力」をさせたい
今後の展望や期待について教えてください
水越:現在は、目標設定のタイミングで定期的にスキルの棚卸しをしており、半年に一度の目標設定で、「現状はこうだけど、どうしよっか」と「SkillDB」をベースとした目標設定をしています。
「SkillDB」を導入したことで、スキルが可視化され、単価とも一定の相関関係があることもわかりました。スキルアップ→単価アップという関係性が証明できるようになったので、今後はスキルをベースにした目標設定や能力開発に注力できればと思っています。例えば、これまでの能力開発の目標は「この本読む」とか「このハンズオンする」といったものでした。今後は、このスキルを1つあげると2ポイントというように、能力開発目標にも落とし込んでいければと思っています。

スキルグラフ機能のイメージ
ただ、どんなスキルでも、レベルをあげればよいというわけではなく、エンジニアには評価や給与に繋がる「報われる努力」をさせてあげたいと思っています。例えば「HTMLをいまから学んでも単価は上がらないけど、AWSのスキルを2つあげれば単価が上がるよ」というような指針やキャリアロードマップをつくれたらと考えています。そうすることで、個人の成長とビジネスの成長を連動させられるのではないかと。ここについては、最近、営業とエンジニアと人事とで毎週、議論しています。
「単価」と一言で言っても、単価の決定要因はとても複雑です。同じスキルで、同じ言語で開発していても、商流や、産業・業務プロセス、利用する製品や開発工程などで、単価は変動します。ですので、今後「SkillDB」に期待することとしては、エンジニアの「適正価格」を算出できるような、業界に共通するプラットフォームになってくれたらと期待しています。また、会社間の「スキルの物差し」が共通化されることで、企業間のマッチングにも活用できるのではと可能性を感じています。お互いに同じスキルとレベルだったら納得できますから。そのためにも、はやく業界に広まってほしいですね。

社名
株式会社アーシャルデザイン
事業概要
SportsForce事業
-Tech & Boost|テックアンドブースト
-Master & Coach|マスターアンドコーチ
-Talent|タレント
従業員数
300名(2025年9月現在)
企業URL
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